生命保険というとまず死亡保険を思い浮かべることが多いですが、それと並び身近な生命保険が医療保険です。
最近では実際にかかった費用を補償するタイプのものも出ていますが、今回は公的医療保険の内容を確認しながらオーソドックスな医療保険とがん保険についてしらべてみました。
公的医療保険
医療保険を考えるとき、まず頭に入れておきたい制度が公的医療保険制度です。
公的医療保険とは、わたしたちが病気やけがをしたとき一定の割合を自己負担することで必要な医療を受けることができる制度です。
公的医療保険【こうてき‐いりょうほけん】
社会保険の一つで、病気やけがをしたときに、一定の自己負担で必要な医療を受けることができる制度。
[補説]日本では、被保険者の職業や年齢によって、健康保険・船員保険・共済組合・国民健康保険・後期高齢者医療制度などに分かれ、すべての国民に加入が義務づけられている。→国民皆保険
出典:小学館デジタル大辞泉
特に確認しておくべき項目は以下の2つになります。
自己負担割合
保険診療に関しては医療費に対して一定の割合を負担するだけで医療を受けることができます。
医療費の自己負担割合は下表のようになります。
年齢 | 条件詳細 | 自己負担割合 | |
義務教育就学前 | 2 割 | ||
義務教育就学後 ~70歳未満 |
3 割 | ||
70歳以上 75歳未満 |
現役並み所得者以外 | 昭和19年4月1日以前生まれ | 1 割 |
昭和19年4月2日以降生まれ | 2 割 | ||
現役並み所得者 | 3 割 | ||
75歳以上 | 現役並み所得者以外 | 1 割 | |
現役並み所得者 | 3 割 |
上記のように年齢と所得により違いはありますが、保険診療に関しては実際の医療費に対して3割以下の自己負担で医療が受けられることが分かります。
高額療養費制度
1か月あたりの医療費の支払額に上限を設けているのが高額療養費制度です。
要約した表は次のとおりです。
70歳未満の場合
所得区分 | 自己負担限度額 | |
年収約1,160万円~ 標準報酬月額83万円以上 |
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | |
年収約770万円~年収約1,160万円 標準報酬月額53万円~79万円 |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | |
年収約370万円~年収約770万円 標準報酬月額28万円~50万円 |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | |
年収約156万円~年収約370万円 標準報酬月額26万円以下 |
57,600円 | |
住民税非課税者等 | 35,400円 |
70歳以上75歳未満の場合
所得区分 | 自己負担限度額 | |
現役並所得者 | 年収約1,160万円~ 標準報酬月額83万円以上 課税標準690万円以上 |
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
年収約770万円~年収約1,160万円 標準報酬月額53万円以上 課税標準380万円以上 |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | |
年収約370万円~年収約770万円 標準報酬月額28万円以上 課税標準145万円以上 |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | |
一般所得者 | 年収約156万円~年収約370万円 標準報酬月額26万円以下 課税標準145万円未満 |
57,600円 |
住民税非課税世帯 | 24,600円 | |
住民税非課税 世帯年金収入80万円以下 |
15,000円 |
表を見ると、所得などにより上限は変わりますが1か月に支払わなければならない医療費の自己負担額には上限があることがわかります。
つまり、保険診療を受ける場合1回の診療については1~3割の自己負担で受診ができ、どれだけ治療を受けても1か月あたりの支払いには上限額がありそれ以上の負担は必要ないことになります。
医療保険は必要か?
公的医療保険について確認したところ、「一定の年齢を超えると窓口での負担割合は通常安くなる」「自己負担額には上限が設けられている」ということがわかりました。
そのためか、ネット上では医療保険は必要ないと断言するような記事をよく目にします。
たしかに充分な貯えがあれば医療保険に入る必要はないかもしれませんが、すべての人にそう言えるかというとそうは言い切れないようです。
なぜなら、自己負担に上限が設定されるのは保険診療といわれる部分に限られるからです。
保険診療【ほけん‐しんりょう】
国民健康保険や社会保険等の健康保険などの公的医療保険制度が適用される診療を受けること。→ 自由診療
出典:小学館デジタル大辞泉
入院すると個室ではなくても1日数千円の差額ベット代を請求される場合があります。
設備の整った個室では数万円になることもあるこの差額ベット代は高額療養費制度の対象にならずすべて自己負担になります。
他にも先進医療や食事療養費など公的医療保険の対応にならない出費が発生します。
そのような部分に備えるのが医療保険だと思います。
多くの医療保険が保障額を増減させたり特約を付けたりすることができるので、必要に応じて健康保険適応外の部分に備えるために民間の保険を上手に活用することも必要でしょう。
がん保険は必要か?
日本人の2人に1人はがんを経験する
メディア等で「2人に1人はがんを経験する」という言葉を耳にしたことがあるのではと思いますが、どれくらいのリスクがあるのでしょう?
下の表の右端にある生涯の欄をみると、男性で約6割以上、女性で約4割以上の人が「がん」にかかるリスクがあるということがわかります。
現在年齢別がん罹患リスク
男 性 | 10年後 | 20年後 | 30年後 | 40年後 | 50年後 | 生涯 |
30歳 | 0.60% | 2% | 7% | 20% | 41% | 62% |
40歳 | 1% | 7% | 20% | 41% | 63% | |
50歳 | 5% | 19% | 40% | 63% | ||
60歳 | 15% | 38% | 63% | |||
70歳 | 29% | 60% |
女 性 | 10年後 | 20年後 | 30年後 | 40年後 | 50年後 | 生涯 |
30歳 | 1% | 5% | 10% | 18% | 29% | 47% |
40歳 | 3% | 9% | 17% | 28% | 46% | |
50歳 | 6% | 14% | 25% | 44% | ||
60歳 | 9% | 21% | 41% | |||
70歳 | 14% | 36% |
参照:国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター公式ホームページ
がんの治療とがん保険
がんの治療では、多くの場合・手術(外科治療)・薬物療法(抗がん剤治療)・放射線治療が選択されるようです。
これらはがん3大治療と呼ばれていますが、このような治療の場合「治療期間が長くなる」「外来での治療が多くなる」といったケースが見られるため、それに対応できるようがん治療に特化した保険が「がん保険」です。
がん保険の特徴
がん保険も医療保険の一種ですが、保障の対象をがんに限定することでほかの保険では保障されない内容なども準備できるがん治療に特化した保険です。
がん保険には、診断確定時に一時金のみを受け取るタイプと、診断・入院・通院など治療過程で給付金を受け取れるタイプのものがあり、それぞれがん保険単品で契約するものと他の保険に特約として付加するタイプがあります。
がん保険は必要か?
がんは再発や転移・長期療養といったリスクがある病気なので、いくら公的健康保険に高額療養費制度があるといっても月々の自己負担額は家計を圧迫していくと思われます。
さらに上記「現在年齢別がん罹患リスク」を見るとわかるように、加齢とともにリスクが増すことからも検討する価値はあるでしょう。
既にがん保険に契約していれば安心?
下の表は厚生労働省令和2年患者調査の抜粋でが、これを見ると入院患者数は減少傾向なのに対し外来の患者数が増加していることが分かります。
もし契約している保険が「入院して手術をする」治療方法が一般的だった時代に作られた保険であったら外来治療が増えてきた今の医療事情に合わない可能性もあるので、既にがん保険に契約していても安心とは言い切れないでしょう。
平成17年 | 平成20年 | 平成23年 | 平成26年 | 平成29年 | 令和2年 | ||
悪性新生物 | 総数 | 285 | 297.8 | 298.3 | 300.8 | 309.8 | 295.1 |
入院 | 144.9 | 141.4 | 134.8 | 129.4 | 126.1 | 112.9 | |
外来 | 140.1 | 156.4 | 163.5 | 171.4 | 183.6 | 182.2 |
さいごに
今回は、「医療保険」「がん保険」選びについてしらべてみました。
もしも病気になってしまった時に貯金を切り崩すのが不安であれば、その一部分を医療保険で備えるという選択もあるでしょうし、「医療保険は不要だけれど、がんだけは心配だ」といった場合は、がん治療に特化したがん保険を検討してみてもよいかもしれません。