日本人は40歳になると介護保険に加入することになります。
その介護保険に付随する制度のなかで、きちんと把握しておけばもしものとき介護費用の自己負担額を軽減することができる「高額介護サービス費支給制度」や「介護保険負担限度額認定証」についてしらべてみました。
介護保険(公的介護保険)とは
平成9年(1997年)制定・平成12年(2000年)4月1日施行の『介護保険法』に基づき、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により入浴・排せつ・歩行・食事等に一定以上の介護を必要とする人たちのためにその能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう必要な福祉サービスに係る給付を行う制度です。
保険者は基本的に市区町村となり、被保険者はその市区町村に居住する40歳以上の人になります。65歳以上の人は第1号被保険者、40歳以上65歳未満の人は第2号被保険者といい、その保障内容には多少違いがあります。
第1号被保険者の保障
社会的に支援を必要とする状態(要支援)の認定を受けた場合や、寝たきりや認知症などで介護を必要とする状態(要介護)の認定を受けた場合に「予防給付」「介護給付」のサービスをそれぞれ受けることが出来ます。
第2号被保険者の保障
老化に起因する疾病、初老期認知症や脳血管疾患など指定された下記16の疾病で介護認定を受けた場合に限ってサービスを受ける事が出来ます。
第2被保険者でも介護保険の対象となる特定疾病
- 末期のがん
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靭帯骨化症
- 骨粗鬆症による骨折
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症(ウエルナー症候群)
- 多系統萎縮症(シャイ・ドーレガー症候群)
- 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患(脳出血・脳梗塞など)
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節や股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
介護認定の申請と要介護度
介護保険制度を利用するためにはまず要介護認定を受ける必要があります。
ここでは申請の手順や要介護度について確認します。
要介護認定の申請
要介護認定を受けるためには住居地の市区町村役場担当窓口で要介護認定の申請をします。
申請後の大まかな流れは次のとおりです。
- 市区町村担当職員の聞き取り調査や医師の診察による審査書類の作成
- コンピュータや介護認定審査会による審査
- 要介護度の認定
- 申請者への通知(要介護度の認定あるいは非該当)
申請から通知までは原則30日以内に行われ、認定されれば6か月間有効になります。
要介護度のめやす
実際には市区町村役場に要介護認定の申請をし審査を経て認定される要介護度ですが、要介護度ごとの状態のおおよその目安は以下のようになります。
要介護度 | 状 態 | |
要支援1 | 食事や排泄 | ほとんど自分ひとりでできる |
立ち上がりや片足での立位保持 | 何らかの支えを必要とすることがある | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | 一部に何らかの介助を必要とする | |
要支援2 | 食事や排泄 | ほとんど自分ひとりでできる |
立ち上がりや片足での立位保持 | 何らかの支えを必要とする | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | 何らかの介助を必要とする | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | 何らかの支えを必要とすることがある | |
要介護1 | 食事や排泄 | ほとんど自分ひとりでできる |
立ち上がりや片足での立位保持 | 何らかの支えを必要とする | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | 何らかの介助を必要とする | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | 何らかの支えを必要とすることがある | |
その他混乱や理解低下がみられることがある | ||
要介護2 | 食事や排泄 | 何らかの介助を必要とすることがある |
立ち上がりや片足での立位保持 | 何らかの支えを必要とする | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | 何らかの介助を必要とする | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | 何らかの支えを必要とする | |
その他混乱や理解低下がみられることがある | ||
要介護3 | 食事や排泄 | 自分ひとりでできない |
立ち上がりや片足での立位保持 | 自分ひとりでできない | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | 自分ひとりでできない | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | 自分でできないことがある | |
その他いくつかの不安行動や全般的な理解の低下がみられることがある | ||
要介護4 | 食事や排泄 | ほとんどできない |
立ち上がりや片足での立位保持 | ほとんどできない | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | ほとんどできない | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | 自分ひとりではできない | |
その他多くの不安行動や全般的な理解の低下がみられることがある | ||
要介護5 | 食事や排泄 | できない |
立ち上がりや片足での立位保持 | できない | |
身だしなみや居室の掃除などの身のまわりの世話 | できない | |
歩行や両足での立位保持などの移動動作 | できない | |
その他多くの不安行動や全般的な理解の低下がみられることがある |
受けることが出来る介護サービス
要介護度が決定すると介護サービスを受けることが出来るようになります。
サービスを利用するにはまず介護サービス計画(ケアプラン)の作成が必要です。要介護度が「要支援」の場合は地域包括支援センターに作成を依頼し、「要介護」の場合は在宅サービス利用であれば居宅介護支援事業者(介護支援専門員)、施設サービス利用であれば施設の介護支援専門員が作成します。
介護保険で利用できるサービスの種類と内容は要介護度によって以下のようになります。
要介護度 | 支給限度額 (1ヶ月) |
利用できる在宅サービスの目安 | |
頻 度 | 内 容 | ||
要支援1 | 50,030 円 | 1週間に2~3回程度 | 週1回の訪問型サービス(ホームヘルプサービス) |
通所系サービス(デイサービス) | |||
月2回の施設への短期入所 | |||
要支援2 | 104,730円 | 1週間に3~4回程度 | 週2回の訪問型サービス |
通所系サービス | |||
月2回の施設への短期入所 | |||
福祉用具の貸与(歩行補助つえ) | |||
要介護1 | 166,920円 | 1日に1回程度 | 週3回の訪問介護 |
週1回の訪問看護 | |||
週2回の通所系サービス | |||
3ヶ月に1週間程度の短期入所 | |||
福祉用具の貸与(歩行補助つえ) | |||
要介護2 | 196,160円 | 1日に1~2回程度 | 週3回の訪問介護 |
週1回の訪問看護 | |||
週3回の通所系サービス | |||
3ヶ月に1週間程度の短期入所 | |||
福祉用具貸与(認知症老人徘徊感知機器) | |||
要介護3 | 369,310円 | 1日に2回程度 | 週2回の訪問介護 |
週1回の訪問看護 | |||
週3回の通所系サービス | |||
毎日1回夜間の巡回型訪問介護 | |||
2ヶ月に1週間程度の短期入所 | |||
福祉用具の貸与(車イス、特殊寝台) | |||
要介護4 | 308,060円 | 1日に2~3回程度 | 週6回の訪問介護 |
週2回の訪問看護 | |||
週1回の通所系サービス | |||
毎日1回の夜間型訪問介護 | |||
2ヶ月に1週間程度の短期入所 | |||
福祉用具の貸与(車イス、特殊寝台) | |||
要介護5 | 360,650円 | 1日に3~4回程度 | 週5回の訪問介護 |
週2回の訪問看護 | |||
週1回の通所系サービス | |||
毎日1回ずつの早朝・夜間型訪問介護 | |||
1ヶ月に1週間程度の短期入所 | |||
福祉用具貸与(特殊寝台、エアーマットなど) |
高額介護サービス費支給制度
同一月に介護保険を利用して支払った自己負担額の合計額が一定の上限額を超えたとき、申請をすることで超過分が「高額介護サービス費」として支給される制度が『高額介護サービス費支給制度』です。
高額介護サービス費の申請方法
高額介護サービス費の支給対象となる場合には、サービス利用から約3ヶ月後に住居地の市区町村役場から対象になる旨の通知と支給申請書が送られてきますので、必要事項を記入・押印し、同時に案内される必要書類とあわせて窓口へ提出します。
その後、申請が受理されると「支給決定通知書」が届き指定した口座へ振り込みが行われます。次の回からは自動的に振り込まれますので都度の申請は不要となります。
高額介護サービス費支給制度による自己負担上限額
この制度による自己負担額の上限は所得により分けられており下の表のようになります。
区 分 | 上限額 | ||
現役並み所得者 | 現役並み所得者がいる世帯の方 | 44,400円 | 世帯 |
一般世帯 | 世帯内のどなたかが市町村民税を課税されている方 | 44,400円 | 世帯 |
低所得世帯 | 世帯の全員が市町村民税を課税されていない方 | 24,600円 | 世帯 |
前年の所得金額+公的年金の合計が80万以下の方など | 24,600円 | 世帯 | |
15,000円 | 個人 | ||
生活保護受給世帯など | 生活保護を受給している方など | 15,000円 | 個人 |
高額介護サービス費の対象外となるもの
以下の費用については高額介護サービス費の対象となりませんので注意が必要です。
- ショートステイなど介護保険施設での下記費用の自己負担分
食費・居住費(滞在費)・差額ベッド代・日常生活費など - 在宅で介護サービスでの下記費用
福祉用具の購入費や住宅改修費
介護保険負担限度額認定証
認定を受けることで介護保険施設を利用した場合の食費や居住費(滞在費)が軽減される制度が『介護保険負担限度額認定証』制度です。以下の条件を満たすことで本来なら全額自己負担となる介護保険施設等利用時の費用が軽減されます。
- 本人及び同一世帯の全員が市区町村民税の非課税者であること
- 本人の配偶者(別世帯も含む)が市区町村民税の非課税者であること
- 本人及び配偶者の預貯金等の資産の合計額が2,000万円以下であること
ただし配偶者がいない場合は本人の預貯金等の資産の合計額が1,000万円以下であること
認定証の申請方法
介護保険負担限度額認定証は住居地の市区町村役場の担当窓口に申請します。
申請には以下のようなものが必要になります。
- 介護保険負担限度額認定申請書
- 同意書
- 預貯金等の確認資料
銀行・信託銀行・証券会社などの口座残高が分かるものや、借用証書など借入金残高が分かるもののコピーなど
介護保険負担限度額認定証を受けることによる負担限度額
介護保険負担限度額認定証を受けることで負担限度額が設定されます。
ただし所得などの条件に応じて利用者負担段階に分けられ、軽減される金額も変わりますので確認が必要です。
所得などによる利用者負担段階設定区分
設定区分 | 対象者 | ||||
第1段階 | 生活保護者等 | ||||
世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者 | |||||
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円以下 | ||||
第3段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円超 | ||||
第4段階 | 市区町村民税課税世帯 |
設定区分第1段階から第3段階の1日当たりの負担限度額は以下のとおりです。
負担限度額は設定区分以外に施設の種類、部屋のタイプによっても異なります。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、短期入所生活介護の場合
基準費用額 | 負担限度額(日額) | ||||
(日額) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | ||
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
従来型個室 | 1,150円 | 320円 | 420円 | 820円 | |
多床室 | 840円 | 0円 | 370円 | 370円 | |
食 費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 |
介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合
基準費用額 | 負担限度額(日額) | ||||
(日額) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | ||
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
従来型個室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
多床室 | 370円 | 0円 | 370円 | 370円 | |
食 費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 |
さいごに
今回は介護保険制度についてしらべてみました。
要介護認定を受けることで色々な介護サービスが利用できるようになります。
費用についても一定割合の支払いで済み、高額介護サービス費支給制度などによって支払いの上限も設けられていますので、内容をきちんと確認し必要な場面が来たときには上手に利用したい制度です。